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ミューズが微笑みを与えた音楽 2

 リムスキー=コルサコフの『シェヘラザード』を取り上げます。そして、同年に作られた『ロシアの復活祭』と聴き比べることによって「ミューズが微笑みを与えた」の意味を考えてみます。同年に作られたということは、作曲技法や作曲傾向は同じ程度だと考えて良いでしょう。
 『シェヘラザード』は、アラビアンナイトをテーマとした、というアイディアの勝利、という面はありますが、メロディ、曲の雰囲気ともに人を惹きつけるものがあります。しかし『ロシアの復活祭』は部分の魅力にとぼしく、筆がのびていない。こうなると、作曲家本人にはいかんともしがたく「ミューズ」頼みになってしまう。

 音楽の専門教育を受けた人たちは、得てして、作品の技術的な面を重視してしまいがちです。専門家ではない人たちは、技術面は重視せずに本質をみているように思います。クラシック百選などというCDのシリーズを見ると「ミューズが微笑みを与えた」曲ばかりを選んでいます。専門家が絶賛するような曲、たとえば「フーガの技法」などは収録していません。「ミューズが微笑みを与えた」音楽は人の心をゆさぶる力があります。そして、心をゆさぶる音楽でなくては非専門家には評価されにくい。
 多くの音楽家は、音の造形的な美しさがあれば、心がゆさぶられなくても満足できてしまう。そういう音楽家は、音楽家として純粋なようにも見えますが、芸術はひとの心をゆさぶらなくては意味がない、とぼくは考えています。しかし「心をゆさぶる」ことを学問的に究明するわけにもいきませんし、ことばにして伝えることも難しい。そこで「ミューズが微笑みを与えた音楽」と逃げることになる。

 音楽を専門とし、毎日、音楽のことばかり考えていると、技術的なことだけで頭がいっぱいになってしまい、音楽を志すきっかけとなった、心が揺さぶられた経験を忘れがちになります。そのあたりのことを世阿弥は「初心忘るべからず」と書き記したのだと思います。
 

March 18, 2020
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森 孝雄のアレンジ/Published sheet music


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