ショパン:バラード1番/Chopin Ballade No. 1
 この曲は「ナポリの6」という和音で始まる、珍しい曲です。と言っても「ナポリの6」はよく使われる和音で、有名なところではベートーヴェンの月光の3小節目の裏拍(音では、13, 14秒)があります。


 お聞きいただいてもお分かりでしょうけど、「ナポリの6ではじまる曲を作ってやろう…」というような和音ではありません。以前からなんとなく気になっていたのですが、きょう改めて楽譜を見てみました。テーマは赤のスラーを施した部分です。

 たぶんこのテーマを最初に思いついたのでしょう。このテーマは音階の第四音からはじまっていて、曲の出だしとしては突飛な印象を受けます。出だしの「ド」を省いて「レ」からテーマを始めることも可能ですが、そうすると古典派のテーマとなってしまい、ショパンの好みには合わなくなってしまいます。そこで思いついたのが、「ナポリの6」だったのです。ここはかなり悩んだところだと想像します。「ナポリの6で始める?」と思いついても最初はすぐにそのアイディアを却下したはずです「そんなハズはない」と。でも、考えれば考えるほど、「それしかない」と思い至ったのでしょう。
 最初にひびく「ナポリの6」は最低音が「ラ♭」ではなく「ド」なので、曲全体の主和音だと感じにくく、靄のかかったように響き、テーマへの期待感が増していきます。そして「ナポリの6」の構成音のひとつである「ド」からはじまるテーマがじつにしっくりと鳴る。
おスヽメ
Played by Valentina Lisitsa
Sep. 11, 2016