音楽と参加
 音楽はもともと参加型の芸能で、ひとりが歌い出したら手拍子をする、合いの手を入れる、高度なところではハモる。でもクラシックのコンサートではめったにそういうことは起きません。なぜでしょう?と問われることがあります。
 はるか昔、ヨーロッパに住む敬虔なキリスト教徒だった作曲家が「神のための音楽を作ろう」と思い立ちました。神のための音楽ですから、聞いている人は何もしてはいけません。ただじっと聞いているだけです。
 じっとしている人を相手に演奏する時、周期的なリズムにする必要はありませんので、メロディーの文脈で一瞬遅らせたりすることが可能になりました。クラシック以外でもジャズのアドリブやある種の演歌では、聴く人たちが「どんな変化をするのか」見守って静かになる時があります。それと同じ感覚でしょう。
 そういう事情がありますので、膝でリズムをとって聞いていると演奏家の微妙なリズムの揺れを聞き逃してしまいます。とは言っても、そんな演奏のできる人はそんなに多くありません。いま、ぼくが注目しているのは Valentina Lisitsa です。実に魅力的な音楽を作ります。
Oct. 4, 2015