調性音楽(この説明しにくい言葉をこの小文であぶり出してみたいと思います)
 テレビから流れる音楽の99%以上は調性音楽です。調性音楽ではない音楽の代表例に『君が代』があります。『君が代』がもつ捉えどころのない、カタルシスのない感じが非調性音楽に共通する特徴です。調性音楽は17世紀が始まる前後にヨーロッパで「発明」されました。それは、絵画における遠近法よりもはるかに重要な「発明」でした。そして19世紀末まで、調性音楽は揺るぎない力を持っていました。調性音楽前後の代表的な作曲家を並べてみましょう。
調性音楽の前:デュファイ DuFay、デプレ des Prés、パレストリーナ Palestrina
調性音楽:バッハ Bach、ベートヴェン Beethoven、ショパン Chopin、ブラームス Brahms
調性音楽の後:シェーンベルク Schönberg、シュトックハウゼン Stockhausen、メシアン Messiaen
(シェーンベルクは調性音楽も書いています)
 できるだけ公平にあげてみましたが、調性音楽をはずれると途端に知名度が下がります。クラシックコンサート、クラシック音楽のCDに取り上げられる曲もまた99%以上が調性音楽です。もしこの世の中に調性音楽がなかったら、ぼくは音楽家になっていません。そんな魅力的な調性音楽が生まれたのが17世紀、江戸時代の始め頃(鎖国していなければ日本にも調性音楽が入ってきたはずです)。人類の歴史から見ればつい最近のことです。なぜそれまで人類は調性音楽を持たなかったのか?
 調性音楽におけるバス(最も低い声部、ベース)は独特な動きをします。その動きは「歌詞にメロディーをつける」という発想では泛かんでこないものです。 おそらくオルガンが発明されて、4つ以上の音を一人の人間が同時にコントロールできるようになった時、調性音楽が発明されたのだと思います(ギターの可能性もありますが、バスをしっかり作るのはなかなか大変ですのでオルガンの可能性が高いでしょう)。調性音楽によってある種の脳内物質が分泌され、それを脳は快感だと感じるのでしょう。そんなものが近世の発明とはちょっと意外な感じがします。
Mar. 10, 2016